回心誌

日々是回心

【ブルベ・イエベ】パーソナルカラー診断はどこから来てどこへ行くのか【春夏秋冬】

Color analysis - Wikipedia

Wikipedia(英語版)では「カラーアナリシス(Color Analysis)」という項目で取り扱われている。いくつか別名があるが、衣服、化粧などの色彩を決める際の参考として、個人の肌の血色、瞳、髪色を用いて「似合う色」を選定する技法のことを言う。

以下が初期の貢献者として挙げられている。

  • Chevreul(シュヴルール)
  • Munsell(マンセル)
  • Itten(イッテン)
  • Dorr(ドア、もしくはドール?)
  • Caygill(ケイギル?)


シュヴルールとマンセルは色の調和についての基礎理論を築いたとは言えるが、個人の性質と結び付けたわけではなさそうだ。
この前にも、ニュートンゲーテなど、色彩についての研究の積み重ねがあったはずだが、特に調和的な色彩についての貢献者が挙げられているのだろう。


イッテンは『The Art of Color』の中で「Subjective Color」という語を用いて、パーソナリティと色を紐づけた議論を展開している。また、同書の中で季節と調和的な色彩の関係についても議論している。
https://www.irenebrination.com/files/johannes-ittens_theartofcolor.pdf


昨今のパーソナルカラー診断に直接つながる肌の色味と似合う色彩の関係を評価し、そして商業的な応用を進めていったのは、専らビレン、ドアが端緒といってよさそうだ。

ビレンは1930年代に職業としてのカラーコンサルタントを確立させた。色を色相ごとに暖色系/寒色系に分け、同じグループの色は調和するという理論で、イエローベース、ブルーベースに通じる*1

同様にドアの理論によれば、すべての色には必ず青か黄かのアンダートーンがあり、同じアンダートーンの色同士の配色は調和するとされる。ここで、青はKey 1、黄はKey 2と呼ばれる。
ドアに師事したナップによって、80年代に書籍『Beyond The Color Explosion』にまとめられ、さらに貞子ネルソンによって日本へ紹介された。
この辺りの経緯は以下の「Universal Color Institute™ lnternational」のウェブサイトが詳しい。
History&Roots『ロバート・ドア メソッド ブルーベース/イエローベース』

ちなみに上のウェブサイト、レトロな雰囲気だけど、2001年にはすでに今とほぼ同じ形で存在してたっぽい。
https://web.archive.org/web/20010312004350/http://www.b-ycolor.com/

1999年9月1日設立ということで、すでに25年近くの歴史があるとのこと。
https://www.shimin-ouen.com/author/13032/?from=%2Fteam%2Fpage%2F14%2F



ところで、青と黄を対比的に扱ったのはゲーテが初出だとコメントしてる人も見かけた。

光に近い色である黄色、そしてそれに近い橙などはプラスの作用、すなわち快活で、生気ある、何かを希求するような気分をもたらす。闇に近い色である青、そしてそれに近い紫などはマイナスの作用、すなわち不安で弱々しい、何かを憧憬するような気分をもたらすとゲーテは言っている。人間の精神は不思議と色彩環が示す秩序の影響を受けているように見えるとゲーテは述べた。

色彩論 - Wikipedia

パーソナルカラー診断は一種の色彩心理学と言えるしゲーテ色彩心理学の祖とみなすこともできる。
その意味ではパーソナルカラー診断の最初の貢献者としてゲーテを挙げてもいいかもしれない。



さて、Dorrの直系である「Universal Color Institute™ lnternational」のウェブサイトで批判的に取り上げられている流派がある。

ダイアナ・ビンス 1950年代
イースト・コーストにて、四季で分ける理論を開発。
(ロバート・ドアのオリジナルディクショナリーを改ざんし開発。直接ロバート・ドアの師事を仰いではいない、理念も違う。)

History&Roots『ロバート・ドア メソッド ブルーベース/イエローベース』

「改ざんし開発」、とは剣呑だ。
ダイアナ・ビンス(Diana Vinceのはず)についてはGoogleでは情報が得られなかった。
ダイアナ・ビンスからキャロル・ジャクソン(Carol Jackson)の著書『Color Me Beautiful』へつながる。
こちらは青黄の二分類ではなく、四季を用いて4分類する理論である。

Wikipediaによると、四季を用いて色彩を分類した始祖はイッテンのようだ。
さらに70年代以降、四季ごとの色彩をパーソナリティと紐づけるカラーマッチング手法が相次いで開発されている。
提唱者はケイギル、ケントナー、ジャクソン、等々。
WikipediaにはDiana Vinceの名はない。
「ジェリー・ピンクニーはファッション・アカデミーにて「カラー・ミー・ビューティフル」というクラスを開設。」とあるが、"Jerry Pinkney" "Color Me beautiful"で検索してもヒットしなかった。



ドアはネルソン貞子によって*2、ジャクソンは佐藤泰子*3、ケントナーは宗行由賀子・潔*4によってそれぞれ日本に持ち込まれたが、ケイギルについては日本へ持ち込まれた形跡が確認できなかった。
日本人の弟子を取らなかったのだろう。ケイギルの主著書は『Color: The Essence of Your』*5だが、日本語での翻訳はされていない。

また、ジャクソンに師事したドリス・プーザー(Doris Pooser)はニューヨークでオールウェイズ・イン・スタイル(Always in Style)社を設立。
オールウェイズ・イン・スタイル社と業務提携したのが菅原明美だが、現「株式会社インプレッション」で現在も活動されているようだ。
プーザーがジャクソンに師事したことは著作の表紙からもうかがえる。

Always in Style With Color Me Beautiful: Your Shape, Youre Style!

このほか、2011年の愛知県岡崎市のカルチャーゼミで、「米国ドリス・プーザー女史より直接指導を受けたカラーリスト」として井坂勝美が紹介されている*6


さて、日本へ輸入されたパーソナルカラー診断手法だが、さらにアレンジ・融合されて様々な団体に引き継がれている。

  • 全日本カラースタイルコンサルタント協会
    • 16タイプ・パーソナルカラー協会を関連協会として挙げている。そちらを参照。
  • 16タイプ・パーソナルカラー協会
    • 四季に対し、さらに「黄み・青み」「明るさ」「あざやかさ」「清濁感」の4属性を掛け合わせて16タイプ分類にしたもの。2022年で30周年ということなので、1992年に発明された手法のようだ。
  • 日本パーソナルカラー協会
    • 色相、明度、彩度、清濁の4属性で分析する。
  • 新パーソナルカラー協会
    • 色彩(青・黄)、明度、彩度、清濁の4属性で分析する「4Dパーソナルカラー」。日本パーソナルカラー協会と4属性で分析する点は同じだが、さらにここに「主観的な心理作用」である「表現感情」の概念を追加している。
  • 日本カラリスト協会
    • 「パーソナルカラリスト検定」でパーソナルカラー診断を取り扱っている。独自の色彩理論である「CUS配色調和」をベースとして青・黄、四季を用いたパーソナルカラー診断に応用するようだ。
  • 日本カラーコーディネーター協会(J-color)
    • 「色彩活用パーソナルカラー検定」でパーソナルカラー診断を取り扱っている。「パーソナルカラーは、色の分類方法や判断基準が異なるいくつかの流派がありますが、J-colorではどの流派でも共通する理論を基礎から応用まで総合的に学ぶことができます」とのことで、特にこだわりなく各流派をまんべんなく扱っているもよう。
  • パーソナルカラー実務検定協会
    • ドアの青・黄2分類に加え、黄をさらに春・秋、青をさらに夏・冬に分解するオーソドックスな四季ベースの色分類を取り扱う。
  • 日本技能開発協会
    • 詳細は不明だが、パーソナルカラー認定資格試験を主催している*11。この団体は特に色彩関係専門というわけではなく、時流に合わせた各種の資格試験を開催する団体のようだ。
  • 株式会社アイシービー
    • 美容・ファッション関係の教育事業を中心に展開している。4シーズン×4トーン×3タイプの48タイプ診断を謡っている*12
  • 国際カラーデザイン協会
    • 生活環境の変化に対応するべく「パーソナルスタイルアドバイザー認証制度」を策定しているが、詳細は不明*13


ではなぜ80年代の日本に持ち込まれたものが最近になって注目されるようになったんだろうか。
それは正直よくわからん。
日本以外だと、韓国やタイなどアジア圏で言及されていることが多く、本家であるはずの欧米では特に盛り上がっている様子はない。


ただ、自分に合う商品を選択するための方法論というのは、ビジネス上合理的なんだろうとは思う。
以前NHKの番組でも取り上げられていた『選択の科学』によると、選択肢が多すぎるより、ある程度少ない選択肢に絞ったほうが商品がよく売れるのだという。

これだけ多くの消費者に支持されている以上、やはり一定の効果は見込まれるのだろうが、これらの色彩調和理論は主観的な側面が大きく、科学的にどこまで評価できるかは疑問だ。似合う・似合わないということを客観的に評価するには大規模な統計的実験が必要になるはずだが、難しいだろう。
近年の盛り上がりには色素(ヘモグロビンやメラニン)測定の機器が普及したことも関係して良そうだ。
ただ、それ以上に、大衆消費社会化が進んだことによって消費者にとって選択の認知負荷が高まった結果、そうした認知負荷を軽減する役割を果たしている、ということは言えると思う。



パーソナルカラー診断について学術分野での評価を調べてみたが、大阪樟蔭女子大学の小林らによって批判的に取り上げられている。