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回心誌

世の中わがんね

散歩するのが100倍楽しくなる樹木の本

特に仕事で疲れて帰ってくるとき、街路樹を見ると落ち着く。
冬頃、葉が落ちて丸裸になる時期はたまらない。晴天や夕日をバックに樹全体の形が影になってはっきりと表れるのを見るのが好き。

そんな習慣があるので、ある日仕事から帰ってふといつもの街路樹を見たのだが、枝がニョキニョキと生えていることに気づいた。

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アホ毛のような無邪気さ無秩序さ奔放さと同時に、なにか湧き上がるような生命力を感じる。

なぜああして枝が一斉に伸び出すのだろう。
気づいてみると気になりだすもので、街の本屋でその疑問に答えてくれそうな本を買ってしまった。

絵でわかる樹木の知識 (KS絵でわかるシリーズ)

絵でわかる樹木の知識 (KS絵でわかるシリーズ)

たまたま目に付いて買った本だが、筆者自身による図が豊富でとても分かりやすい。


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例えばこの図は、斜面に育つ場合に根や幹が樹がどのような形になるのかを説明するものだ。
上に向かって真っ直ぐ伸びる針葉樹は、まるで足元を踏ん張るように、谷側の根を深く発達させる。
対照的に、柔軟な広葉樹は山側から垂れ下がるロープを引っ張るように、山側の地盤に根を張り樹体を固定させる。


専門用語が多いが、ある程度はググってなんとかなる。化学用語も登場するが、あまり細かいところまで理解しなくても十分楽しい。

私が見た幹や太い枝から飛び出すように伸びる枝は、『胴吹き枝』というのだそうだ。また、根元付近から伸びる場合は『ひこばえ』と呼ぶ。

どちらも樹形を乱す、生育を妨げるものとして嫌われているようだ*1

本書によると、胴吹き枝が伸びるのは剪定や枝の衰弱により、栄養が足りなくなってしまったことに対する反応なのだそうだ。なるほど、確かに、幹がバッサリと切断された樹を見かけたが、春になると多くの「胴吹き枝」が生えていた。枝を切り取られた樹は、貯蔵された栄養を使って必死で枝葉を伸ばし、生き残ろうとするのか。

私が見かけた街路樹も、剪定によって栄養が不足していたために「胴吹き枝」を伸ばして栄養を取り戻そうとしていたのだろうか。街路樹は車道・歩道での通行に邪魔な枝や、見栄えの悪い枝は剪定されてしまう。


他にもこの本では樹木に関する身近な現象の秘密を説明してくれる。

例えば、街路樹に瘤が盛り上がっていることがある。

この瘤は自然にできたものだとばかり思っていたが、実は、瘤が形成されるのは、胴吹き枝を刈り取る→また同じところから生える、という剪定を繰り返したからなのだ。春に伸びた胴吹き枝は根元に栄養を蓄積させるので、切り取ってもまた生えてくるというわけだ。


樹形を乱すとして避けられがちな胴吹き枝だが、逆に樹形を整えるのに使われることもある。

私たちが見かけるケヤキは高さ2〜3mほどのところから枝が扇状に広がっている。しかし、実はケヤキは放っておくと高さ5mほどのところまで枝をほとんど出さずに上に伸び続ける。街路樹に使われるケヤキは高さ2〜3mのところで一度幹を切断し、胴吹き枝を伸ばさせて丁度良い高さと見た目になるよう調整されているのだ。


こうした話を読むと、私たちが「自然」と思っているものは実は人為的な剪定の結果だったりするのだと気付かされる。

そして、読めば読むほど樹木が「もの」でなく「いきもの」なのだと思わされる。ただの飾り付けではなく、季節によって様々に形を変えるし、風や虫・菌と時に戦い時に利用し、環境に合わせてしなやかに成長する。

植物の本というと、図鑑だったり花に着目したものか、剪定指南書みたいなものが多い。そんな中、この本は樹木の形態について「なぜ」というところを分かりやすく、かつ深く説明したもので、面白かったし買って得したと思った。

野山や街路樹、公園木を見る目が、きっと変わるはずだ。