回心誌

日々是回心

「浮気は男の本能」とかいう男は例外なくクズ

note.mu

[編](中略)あと「男の浮気は本能」と開き直る男性はどう思いますか?

[アル]「男は種をまきたい本能があるから」とか言うけど、じゃあ「女はより優秀な種が欲しいから浮気する」って理屈も通るかというと、違いますよね。結局、男に都合のいい言葉によって浮気を正当化したいだけ。

確かにクズだとは思うよ。

けど、「男の浮気は本能」=「傾向として男のほうが浮気するように進化してきた」というのは、それなりの理屈があって広まっている話でもある。「女だって優秀な遺伝子残したいはずだから、(男と同じように)浮気するように進化してきたんじゃないの?」とかいうのはそのあたりの理屈が分かってたら出てこないはずの批判だ。そのあたりを解説したい。



まず、生殖への投資量の違いについて。

卵子精子って大きさが随分違う。ヒトの卵子精子は重量比で100万倍にもなる。生成するのに必要なエネルギーの量も当然違ってくる。なぜこのような違いが生まれたのかはちょっと長い話になるので省略するが、大事なのはこのような違いがあるということだ。

この状況で、子や配偶者を捨てて別の子を作ろうとする誘因は、どちらにより強く働くだろうか。どちらも、自分の責任を放り出し、相手に子育てを任せて別の子作りに向かうことはできるとしよう。その場合、投資額が大きいほど離れて次へ向かうのは難しくなる*1

さらに哺乳動物の場合、妊娠がある。メスは妊娠期間中、物理的に次の子を作ることはできないが、一方でオスは別のメスと生殖することができる。加えて妊娠中は卵子以上に多量の栄養を必要とする。


また、体内受精を行うオスとメスの最大の違いは、生まれてきた子が本当に自分の子なのかについて確信が持てるかどうかという点だ。我々の進化の過程にはもちろんDNA鑑定は存在しなかったので、生まれた子が自分の子かどうか、オスには分からない。一生懸命育てている子が実は自分の子ではないとしたら、遺伝子的には無駄な努力ということになる。



これらの点から、男のほうが女より浮気する傾向にあることは進化的に自然なことなのかもしれない。実際、哺乳類のオスは交尾が終わったらメスを見捨てるというのが一般的なパターンのようだ。一方で、多くの人間社会で一夫一妻制が実践されてきたのも事実である。原始的な社会においてもその傾向にあり、これは子育てには非常に多くの時間と労力がかかるため、子育てに父親の協力が不可欠だったからとも言われる*2。人間は他の哺乳動物と比べても、成人するまでにかかる時間がとても長いのである。



いずれにせよ、そういう理屈を持ち出して「俺は浮気するんだ、浮気しても仕方ないんだ」という男はただ言い訳をしているだけなので、クズだ。「貧困家庭に生まれた子は非行に走る割合が高い」というのが事実だとしても、「だから俺は非行に走る」は通じない。ダメなものはダメ。社会全体で見たときに最適な仕組みを考える参考にはなるかもしれないけどね。

ただ、人間にとって文化的な要素は非常に大きいので、理屈としては然々の傾向があると言っても、果たしてそれが我々の行動にどれくらい影響するのかはよく分からないし、そもそも安易に適用するのもどうかとは思う。


利己的な遺伝子 <増補新装版>

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文庫 人間の性はなぜ奇妙に進化したのか (草思社文庫)

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*1:既に投資してしまった栄養は戻ってこないので、サンクコストとして無視することもできる。でも次の子を作るのに必要な栄養素にも性差があり、その差はどのみち無視することはできない

*2:だからこそ浮気の誘因が働くということもできる。他の父親が自分の子を育ててくれるのだとしたら、労せずして遺伝子を残すことができ、遺伝的には大成功だ。