回心誌

世の中わがんね

台湾のブラックメタルバンドChthonic(閃靈)のアルバム『Takasago Army』が何を伝えようとしているか

Chthonic(ソニックと読む)というメタルバンドがある。台湾のバンドだが、日本でも一定の人気を得ている。ボーカルのフレディ・リムはアムネスティ台湾の支部長でもある(もしかしたら既に退任しているかもしれないが)。

その6thアルバムが『Takasago Army』である。高砂義勇隊をテーマにしたものだ。

次の動画は、このアルバムの7曲目『Broken Jade(玉碎)』をニコニコ動画のユーザーが転載したものである。
D
特攻と天皇玉音放送を参照しており、ニコニコ動画のユーザーにも好評である。僕もとても良い曲だと思うが、彼らがこの曲の素晴らしさをきちんと味わえているか疑問である。


以下にWikipediaから一部を翻訳する。
Takasago Army - Wikipedia, the free encyclopedia

『Takasago Army』は台湾のブラックメタルバンドChthonicによる6番目のスタジオ・アルバムである(2011年リリース)。タイトルは第二次世界大戦において台湾先住民族から組織された日本帝国軍の高砂義勇隊を指している。Takasago(高砂タカサゴ)は日本語で台湾を意味する古い呼び方である。このアルバムはChthonicの”Souls Reposed”三部作の最後の作品である。

==Background==
===Theme===
アルバムの表紙は自分自身に”セデック族”としての刺青を刻みこんでいるが(この行為は日本軍によって禁じられていた)、今や日本軍の兵士となった高砂義勇隊の兵士を描いている。この表紙は、こうした兵士の多くが味わった、日本の兵士として、また台湾のセデック族の戦士としてのアイデンティティの葛藤を表現している。

Chthonicのプレス・リリースによると、「このアルバム『Takasago Army』は、かつて台湾の戦士だった者のアイデンティティの葛藤を通して、政府が覆い隠そうとしてきた台湾の歴史の一部を暴くことを試みている。このアルバムはまた、第二次世界大戦中の台湾人の悲劇的な役割を通して、人類としての価値と尊厳を台湾人が追求していくことを提示する試みでもある。」

さて、セデック族といえば、2013年に映画『セデック・バレ』が公開されている。

僕は見なかったが、ストーリーは次のようなものだそうだ。
映画『セデック・バレ』公式サイト

台湾中部の山岳地帯に住む誇り高き狩猟民族・セデック族。その一集落を統べる頭目の息子モーナ・ルダオは村の内外に勇名をとどろかせていた。1895年、日清戦争で清が敗れると、彼らの暮らす山奥にも日本の統治が広がり、平穏な生活は奪われていく。それから35年、頭目となったモーナは依然として日々を耐え抜いていた。そんな中、日本人警察官とセデック族の一人が衝突したことをきっかけに、長らく押さえ込まれてきた住民たちが立ち上がり…。

連合運動会が開かれていた霧社公学校を襲撃したセデックの決起部隊の手によって、戦う術を持たない多くの日本人は女子供の区別なく命を奪われた。日本軍は直ちに鎮圧を開始。山岳地帯の地の利を活かして戦うセデックの前に苦戦を強いられるが、圧倒的な武力を誇る日本軍と警察を前に、セデックの戦士たちは一人また一人と命を落としていく。男たちが絶望的な戦いに挑むなか、セデックの女たちもまた選択を迫られ、それぞれが信じる道を選ぶことに。決着のときは近づいていた…。

日本の側を一面的に悪と決めつけるつもりはない。少くとも映画ではそのように描かれている。しかし、セデック族の人間が日帝に対して怒りや屈辱を覚えたとしても、それは自然なことだろう。

ChthonicのベーシストDorisはインタビューで次のように語っている。
CHTHONIC | 激ロック インタビュー

この“高砂義勇軍”っていうもの自体が、世界ではあまり知られていなくて。台湾でも、世界の他の国でも、“高砂義勇軍”の歴史を表に出してこなかったっていう事実はあると思うので、それに自分達は光を当てたかったんです。高砂義勇軍”に限らず、台湾の先住民族はものすごい数が戦場に借り出されて、20万人もの兵士が太平洋世界大戦のために徴兵されて、3万人以上が命を落としたっていう歴史に光を当てたくて。で、“Takasago”は日本統治時代の台湾の古称で、“Takasago Army”は、その当時に戦った勇敢な兵士のことなんですけど、このアルバムはウーバスっていうセディック族の青年に焦点を当ててストーリーを描いているんですね。ウーバスの祖父は元々日本軍に反対の立場にいた人で殺されてしまうんですけど、ウーバス自身は太平洋戦争に徴兵されて前線に赴かなければいけない立場にいて、先住民としての葛藤もあるし、日本の兵士として戦わなければいけないっていう使命もあって。そういう葛藤を抱えながら戦地に赴いて勇敢に戦ったっていう勇敢さとか、心の強さみたいなものにも焦点を当ててみたかったんです。

『Takasago Army』の主人公であるセデック族の兵士ウーバスの祖父は、映画『セデック・バレ』で描かれたような抗日暴動で殺されたのだろう。「アイデンティティの葛藤」とは、屈辱を受けたセデック族の立場から日帝に対する怒りを抱きつつも、その日帝の兵士として命令に従う、狂おしいものであると考えられる。

あなたが愛国者、愛郷者であるというなら、ぜひ想像して欲しい。例えば日本が某国に占領されたとして、それが今の日本と全く別の伝統や価値観を持った国であるとして、そして愛する者が、土地が、蹂躙されたとして、それでも憎むべき国の兵士として任務を果たすことがどういうことか

さて、このアルバムで描かれたように、多くの台湾人が日本帝国軍の兵士として亡くなった。

その魂の在り処をめぐって、台湾原住民の遺族は靖国神社に抗議し訴訟したが、敗訴した。祖先の魂を無断で戦争指導者と共に祀った事に対して「返我祖霊」をスローガンに戦ったのである*1。次の動画はドキュメンタリー映画『靖国』の一部で、その抗議の様子を撮影したものである。

この動画のコメント欄は罵声で溢れている。勇ましい「玉碎」に喝采を送る人々も、こうした抗議に罵声を浴びせるのだろうか。

先ほど紹介した「Broken Jade」は次の歌詞で締めくくる。(拙訳)

Carry my soul on the winds of the sea
 (海を越え、翼に載せて、我が魂よ)

To darkened depths, I commend my body
 (我が肉体が深淵に朽ちるとも)
Carry my soul on the winds of the sea
 (海を越え、翼に載せて、我が魂よ)
 
To mother island for all eternity
 (母なる島へ還らんことを)

この歌に喝采を送るのであれば、遺族の魂を故郷に返そうとする抗議に、少くとも同情するべきだ。

Takasago Army

Takasago Army