最近、漂流教室を読み直した。
全編を通して、異常な事態に立たされたときの大人の弱さ、人間の弱さが描かれている。普段いい奴だったとしても、エマージェンシーに立ち向かえるとは限らない。右往左往する人もいれば、疑心暗鬼になる人、決然と冷静な判断をできる人、優しさを見失わない人、冷酷になる人。日常生活でまともに振る舞えたとしても、生き抜くことができるとは限らない。勉強ができたとしても、役に立つとは限らない。勇気があり、機転の効く者こそがヒーローになるのだ。
ただし、この漫画は今時のいわゆるサヴァイヴ系やネオリベ的、弱肉強食的な世界観とも違う。主人公・高松翔を通して、極限の状態にありながらも人間性を見失わないことが理想的な生き方として描かれている。一方で弱肉強食的な冷酷さを持ったキャラクターとして描かれ、翔と何度も衝突する大友は、物語の終盤で罪の意識を告白し改心し、翔と信念を一つにする。この物語では、サヴァイヴ的状況で一見有利に思える弱肉強食的価値観が、実は弱さに他ならないものとして描かれているのだ。
戦争はエマージェンシーの最たるものだろう。このような状況下では、常識は通用しない。
近代司法の大原則「疑わしきは被告人の利益に」がなぜ必要なのか。集団心理は疑わしい者を吊るし上げる方向へ容易に流れるのだ。
何といっても、この漂流教室の世界はデタラメだ。なぜタイムスリップするのか? なぜ妄想が現実化するのか? なぜキノコを食べると変身するのか? 火山は噴火する、水は湧く。何がきっかけで何が起こるか、何も予想できない。しかしデタラメだからこそ、世界を予測することなど不可能だという本質を見せている。そう、世界はそもそもデタラメなのだ。
恐怖は現実化する! 楳図かずおの真骨頂。
狂気の中にこそ人間の真実があるのかもしれない。『漂流教室』を読むとそう思い知らされる。
- 作者: 楳図かずお
- 出版社/メーカー: 小学館
- 発売日: 1998/07
- メディア: 文庫
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