回心誌

日々是回心

「テクニカル分析の迷信――行動ファイナンスと統計学を活用した科学的アプローチ」

読んだ。


邦題だといかにもテクニカル分析を否定しているようなタイトルだけど、原題は「Evidence-Based Technical Analysis」で、エビデンスに基づくテクニカル分析を勧める内容となっている。



前半は心理学や科学哲学の議論も多く、そのあたりはかなり飛ばし読みした。
統計分析やインジケーターについては知識が不足しており理解しきれなかった。
という感じではあるが、まさに自分が知りたかったことが書かれていた感じがある。

印象に残ったのは以下のような議論。

  • テクニカル分析は科学的に有効なのか?
    • 効率的市場仮説との関連した議論
  • 戦略の有効性をどのように統計学的に示すか
  • データマイニングや過去の研究から戦略を探索する場合に生ずるバイアス
    • データマイニング・バイアス
    • データスヌーピング・バイアス
    • これらのバイアスへの対策
  • データマイニングによる戦略探索、および有意性検定の実践
    • ルール(戦略)の設計
  • 複合ルール(複合戦略)の設計


ルールの設計として、時系列データの取り扱いを演算子にしているのはけっこうおもしろいと思った。



理解が不足しているのは以下のような点。

  • 有意性検定について
    • p.531-あたり。
    • なんとなくしか理解できていない。少なくともそういう方法で検定する必要があることは分かったが、それぞれの操作について、なんのためにこの操作を行っているのか分かってない点がある。なので自分でやってみるとした場合、どういう場合に何をすればいいか分かってない。
    • 「各ルールのヒストリカルリターンは平均リターンがゼロになるように調整する必要がある。そのために、各ルールの平均日次リターンを計算し、これを各日次リターンから差し引く」この辺が特に分からん。
    • まあ、それを言ったら、そもそもブートストラップで何をしてるか、根本的なところがよく分かってない。だからこの辺も理解できないんだろうなあ。

上は自覚できた範囲であって、理解できていないのに自覚できていないものもたぶんたくさんある。



いくつか物足りないと感じた点。

まず、古い。
原著の出版年が2006年。
単純なパラメータ網羅によるデータマイニングは実践されているが、機械学習については紹介程度で議論はあまりされていない。
この辺りはもっと新しい情報にあたる必要があるはず。

有効な戦略を実際的にどのように適用するか、できるか、適用された場合に市場にどのような影響を与えるかについては(読み飛ばした可能性もあるが)あまり明確な議論がない。
テクニカル分析が科学的に有効だとして、テクニカル分析を用いたある戦略が有効だと科学的に示された場合、すぐ様その戦略が適用されて市場に反映されるはず。
そうすると、その戦略はもはや有効ではなくなるはずだ。

データマイニング機械学習が盛り上がってくる以前の過去のデータを対象にすれば、テクニカル分析を使った戦略の有効性が示せるかもしれないが、今後もそうであるということを示すのは益々難しくなるはずだ。
まあ、そのあたりは学術的な議論の上ではさして重要な問題ではないかもしれないが、利益を生むための応用という意味では重要なはずだ。

利益を生むため、という意味で言うと、議論において手数料を無視しているのも気になった。
というのも、手数料を入れると利益にならない範囲においてのみ市場の非効率性が残されている可能性があるからだ。
「ウィーク型」の効率的市場仮説でも、このレベルの非効率性を否定しているわけではないはずだ。
とはいえ、気になるなら手数料を無視せずに実験してみればいいだけ、ということでしかないかもしれないが。



言及されていたいくつかの文献で、気になったものがあるので読んでみたい。

ウオークフォワード検証は特に金融市場のような非定常的現象に対してはきわめて効果的である。スーとクワンは3万6000の客観的ルールの検証を通じて、適応的トレーディングルール(彼らはこれを学習する戦略と呼んでいる)が効果的効果的であることを見いだした。

P.- H. Hsu and C.- M. Kuan, "Reexamining the Profitability of Technical Analysis with Data Snooping Checks," Journal of Financial Econometrics 3, no. 4 (2005) p. 606-628
ググったらWEBにPDFもあった。
https://homepage.ntu.edu.tw/~ckuan/pdf/snoop01.pdf


エリオット波動について。
基本的にこの本ではエリオット波動を主観的なもの、もっというと反証不可能なものとして批判している。
エリオット波動の難しい点は、パターンを客観的に区別できない点にある。

最近、プレクターの会社が客観的EWPアルゴリズムを開発し、今テスト中とのことだ。これはEWAVESと呼ばれるプログラムで、プレクターの1999年の著書『The Wave Principle of Human Social Behavior and the New Science of Socionomics』で紹介されている。EWAVESが本物の価格データと偽の価格データとを区別できる能力を持つのかどうかはまだ実証されていないが、もしこれが実証されれば、エリオットの市場の動きに対する最初の考え方が正しかったことを示す重要な証拠になる。しかし今実施しているテストではこのプログラムが予測能力を持つことはおそらくは証明できないだろう。プレクターによれば、別のテストも行っているということである。

とのこと。
エリオット波動の理論そのものには私も懐疑的だが、機械的な方法でパターンを見分けられるかどうかには興味がある。



文献ではないが、本書で扱ったケーススタディの結果やReader Questions & Answersも見ることができる。
Dave Aronson Evidence Based Technical Analysis Trading Stocks Commodities