読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

回心誌

世の中わがんね

伊丹十三、悪を暴く

映画 政治参加 経世済民

マルサの女』,『マルサの女2』を観た.『ミンボーの女』は未観賞.

マルサの女については1より2のほうが面白かった.2作目には日本の発展の陰で悪徳が跋扈し,何かが犠牲になっているというメッセージ性があるからだ.

マルサの取り調べを受ける鬼沢が「やかましい!」と立ち上がりこう言う.

俺は国のために地上げをやっているんだよ。日本が国際的な情報都市として世界の金融センターになるためにはなあ、世界中の企業を東京に集めなきゃならねえんだよ。そのためにはオフィス面積が絶対的に不足してるんだ。その不足を埋めるために高層ビルを建てるしかねえだろ。
じゃあ、高層ビルどこに建てるんだ。そんな土地どこにある? オイ! どこにあるんだよお!
法律でも改正して私有地でも取り上げるか。んなことはできねえよなあ。
だから俺たちがやってるんだよ。
政府や大企業のお偉いさんたちが自分の手を汚すかあ? 汚すわきゃあねえだろう。日本の改革のためにはな。誰かがきたねえ仕事を引き受けなきゃならねえんだよ。
俺たちがやらなかったら東京なんてのはすぐに香港にその地位を奪われちまうんだよ。てめえらそれでいいのかあ? おい、日本がどうなっても構わねえってのかあ!

もちろん,叫んでいる鬼沢の本心はそんなものではなく,私欲だ.だが私はこの叫びに作り手の意志を感じた.こうした悪を放置し蔓延らせているその根本的な原因に一般市民が無関係であるはずがない.我々の安寧な生活が何かの犠牲の上に成り立っていることに無関心ではいけない.
日本経済のためには多少の犠牲も已む無し.そういう立場がありうることはよく分かる.しかし犠牲を見ようとしない,見て見ぬふりをするのはそれとは別次元でダメだ.
D

ちなみに地上げ屋自体がなんだか悪者扱いされるような雰囲気を感じるのだが*1,暴力的な立ち退きのせいだと知らなかった.
むしろ『ナニワ金融道』の肉欲棒太郎はけっこういい奴だったので,悪い印象はなかった.(今Wikipediaをみてみたら,風俗ビルを建てて環境を悪化させることで地上げしやすくしていたので,けっこう悪い奴だった)

1作目にはマルサや税務署の「悪」にも理由はある,という話として見るなら,まあメッセージ性はあるのかもしれないが,権藤の悪は素朴なものだ.1作目も,悪役の権藤はよくできていたし,前半の税務署を見せることで国税局の強制的な権限の意味を分かりやすく実感させており,そういう工夫も良かった.
それがあってもなお,悪には我々も噛んでいることを明確にしている2作目のほうが好きだ.

また,政治家の倫理についても触れている.
代議士の猿渡から,地上げ報酬の受け取りについてマルサが聞き出そうとするシーン.

先生、政治家は大変ですなあ。大体日本の政治はカネがかかりすぎるんだ。
私はね、先生、信州の百姓のせがれで父親は村会議員だったから、よーく知ってますよ。「先生方から盆踊りの付け届けが少ない」なんて言って、ぼやく村民がいるのを知ってますよ。盆踊りだけじゃない。葬式だ結婚式だ。連中は政治家にたかることばかり考えている。
私はね先生、選挙民というものは本当は手弁当で先生方を応援するべきだと思っていますよ。自分たちの運命を託する人じゃないの、ねえ。
(中略)
政治家は大変だね〜先生。ときには公明正大でないものを受け取らなきゃならんこともあるでしょう。
私の村でも皆おじいちゃんたち言ってたもん。「選挙は面白い。こんときじゃなきゃタダ酒飲めねえもん」ってね。先生のご気持もよーくわかりますよ。政治家は大変だねえ。皆に食いもんにされてね。愚昧なる選挙民は、先生方ががっぽり献金貰って豪勢な暮らししてると思ってるけど、そんなことないねえ。
私ね先生、失礼だけど先生のことを調べさせてもらったよ。先生のことはよーく知ってる。子どもさんのことも調べさせてもらった。素晴らしーい子どもさんたちだ。あの二人の子どもさんたちの育ち方を見て、私、先生を信用するんだ。
先生が鬼沢のカネを三千万もらったって、それは私利私欲を計らえたんじゃない。私には分かる。国民の負託に応えんがためには、政治家の地位を覚悟せねばならん。そのためにはカネがかかるんだ。先生のような方にこそ、本当の政治をやらせてあげたいなあ〜。

うまいこと褒めるなあと感心してしまうが,まあ,あながち間違いでもないわけだ.小室直樹は「政治家の倫理」と「市民の倫理」を分けるべきだとして,田中角栄を擁護した*2

マルサの女 [DVD]

マルサの女 [DVD]

マルサの女2 [DVD]

マルサの女2 [DVD]

政治無知が日本を滅ぼす

政治無知が日本を滅ぼす

*1:ドラゴンボールの敵キャラであるフリーザは宇宙の地上げ屋らしい

*2:と,宮台真司が言っていたはず.どこで言っていたかはすぐには分からないが