石丸ウォッチャー「取材不足」とは誰か

現代ビジネスに石丸ウォッチャー「取材不足」氏の記事が掲載された。
gendai.media

当該記事のブックマークコメントを見たが、「取材不足って誰？」「政策についての評価はないの？」「政治素人が政治家のウォッチャーってどういうこと？」といった趣旨で著者を疑問視するコメントが散見された。
私は以前から「取材不足」氏の動画を拝見しており背景を把握しているので、この辺りの疑問に答えられるよう、氏の活動を紹介したい。
なお、石丸伸二とは誰か、みたいな説明はこの記事ではしない。Youtubeで動画を見れば、どんな評価を受けているかわかると思う。

まず端的に言うと、取材不足氏は記者でもライターでもない普通のおじさんである。現代ビジネスの紹介文では以下のようになっている。

東京都知事選への出馬を表明した、石丸伸二氏の言動の支離滅裂な面白さとアブなさを動画にして、YouTubeやXで発信している「石丸伸二ウォッチャー」。政治的信条はなく、大手企業でのエンジニアを経て現在はフリー。

政治には詳しくない、安芸高田市にもその市政にも興味がないとはっきり公言している。
今は「フリー」とのことで、時間の融通は効くようだ。無職なのか、フリーランスエンジニアなのかは知らない。

個人的な情報についてはほとんど明らかにしていない。
ライブ配信などの発言を丹念に追っていけば何かしらの情報は得られるかもしれないが、この記事の目的はそこではない。「取材不足」としてどのような活動をしてきたかを紹介することが目的だ。

「取材不足」としての主な活動の場はYoutubeで、石丸伸二を批判する動画を多数投稿している。
www.youtube.com

動画一覧を見ると分かると思うが、サムネイルのセンスはそれほど高くない。地味な配色、素材画像を配置しただけ、もしくは素材画像すら使っていない。いらすとやの「分厚いメガネを掛けた人のイラスト」が取材不足氏自身を表すアバターだ。

動画内容も、ほとんどが字幕を付ける、カットするくらいで凝った編集はせず、動画制作の面でもそれほど高い技量を持たないだろうことが分かると思う*1。

石丸伸二を支持する立場で制作・投稿された動画はYoutubeに多数ありチャンネルも多いが、一方でアンチ石丸伸二の立場のYoutube動画は圧倒的に少ない。
取材不足氏の動画以外で私が知るのは

くらい。
支持派の動画と比較すると、2桁か3桁くらい違うんじゃないだろうか。

政治の知識でも動画制作でも素人レベルだが*2、取材不足氏の存在感は石丸アンチにとっては大きい。
私自身が石丸アンチであるため主観になるが、石丸アンチは「石丸がいかにおかしいかを世間に知らしめ、他のアンチと共感したい」という熱烈な思いを抱えている*3。
取材不足氏の動画はそういったニーズに応えられる希少な存在であると言える。

そんな素人の取材不足氏が石丸アンチ動画を制作するようになったのは、「素人でも分かるくらい明らかに石丸がおかしいから」というようなことをライブ配信で何度か語っている。

動画の再生回数は今時点で1000回程度〜最大2万回程度で、数十万再生の動画が珍しくない石丸支持動画とは雲泥の差だが、地道に動画制作を続けていた。

転機になったのはやはり今回の都知事選出馬で、石丸の名が全国区で知られようになったことだろう。
石丸に注目や興味が集まる中、立憲民主党の米山隆一がXで取材不足氏の動画を引用して批判した。

「世界で一番住みたいと思える町」と言う自分の公約の具体的中身を聞かれて、「思いついていない方がいて心配している」と返す方。それは答弁ではなく詭弁です。こういう方を持て囃すのは、それは間違っています。 https://t.co/897sKWp429
— 米山　隆一 (@RyuichiYoneyama) 2024年5月18日

また、ほぼ同時期、暇空茜も同様に取材不足氏の動画を引用しXに投稿。以降、暇空茜はX等でアンチ石丸の立場で（どこまで本当かは不明だが）石丸動画の再生数が工作されている、などと批判を続けている*4。

初期の動画では数分程度でテキストベースの動画が多かったが、ここ最近は明確に拡散・閲覧を意識し、議会での発言を切り抜いて2分以内に短く編集したものを多く投稿している。拡散を狙う点は他の石丸アンチYoutuberにはない特徴であり、これが奏功して前述の有名人の目に留まったのだろう。

ここまでの紹介で、切り抜き編集で意図的に石丸が悪く見えるような動画を多数制作しているだけ、と思われるかもしれない。
確かに、石丸伸二の悪い側面をわかりやすく伝えたい、という編集意図は明確にある。しかし、私が（全てではないが）会議録で前後関係を確認した限り、余計な情報を削ぎ落としているものの、発言の意図を歪めたりはしていないと言える*5。取材不足氏自身が、フル動画を見て自分で確認してほしいとして概要欄にタイムスタンプ付きで市議会動画のURLを載せている。

また、（特にここ最近は）石丸の発言を切り抜いた動画も多いが、過去の動画では石丸の言動に対して考察した上で批判・説明するものある。
先に紹介した通り、地方自治や政治に特に詳しいわけではない素人だが、素人なりに検証可能な根拠を拾い集めた上で石丸の言動の矛盾を指摘している。

具体的には、Xへの「恫喝」投稿事件について、裁判記録をベースに考察した上で、石丸の主張には無理があり恫喝があったとは考えにくいことを指摘している*6。
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個人的には石丸が恫喝に対して反論したと投稿した件の説明について不適当だと思う部分はある*7。
しかし、Xでは「政策ありきでは」と反論したと投稿しながら地裁陳述では反論しなかったと証言したという市長の言い分の変遷は言い逃れできない嘘だったというのと、音声データの内容から、むしろ市長こそ「議会を牛耳ることも可能となる。そんなこともされるつもりなのか」に対して「政治ってそういうところ」と返しており、「政策ありき」と真逆の発言をしている点から、石丸が信じるに足る人物でないと明確に分かる。

もう1つ具体例を挙げると、地方交付税について石丸の理解に誤りがあるのではないかと指摘した動画があるが、この根拠として地方自治の専門家が記した地方交付税についての論文を参照している。私自身も地方自治や政治や法律に詳しいわけではないが、見る限りで特におかしな点はなく、考察は正しいように思われる。もちろん可能であれば専門家の見解を聞いてみたいと思っている。
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ただ、こういう考察ものの動画はテキストベースで地味、もしくは長くて退屈なのでXで拡散されることはないだろう。

さて、長くなったが、こういう経緯で活動してきた人なので、「取材不足って誰？」となるのは当然といえる。
コツコツと動画を制作し、あるとき動画が拡散され、そこに目をつけた現代ビジネスが記事を依頼したんだろう。
そして、こんな素人の記事をありがたがるなんておかしいよ、という声ももっともだと思う。

しかし、石丸アンチの立場から言わせてほしい。
おかしいのは、素人でもおかしいとわかるような市長が放置されていることだ。（テレ東やアベマなど）メディアで肯定的に取り上げられていることだ。

ちゃんとした報道機関、そこまでいかなくても評論家なり専門家なりがおかしいと指摘してほしい。
専門家がその知見を活かして間違っているのかどうなのか評価してくれたほうが、そりゃもちろんそのほうがありがたい。

でも（わずかな例外を除いて）そうはなっていない。
メディアは揃いも揃って気づかないか見て見ぬ振りか、とにかく指摘しないのだ。
石丸の失言、暴言、詭弁を非難するのが素人だけなのだ。
なぜそうなってしまうのか、ということについて、私の個人的な意見はあるが、ここではその話はしない。機会があればいつか書く。

「素人でもわかる明らかなおかしさ」を疑うなら、ぜひ自分で確認してほしい。
取材不足氏の動画で取り上げられている素材は市議会動画や会議録、記者会見動画など、（裁判記録は別として）ほとんどがウェブ上で参照できる。
そして、石丸伸二のおかしさに気づいてほしい。（ある程度の社会経験や知識は必要かもしれないが）きっと気づくと信じている。